1. ラダー状PSQへのキラル基の導入とハイブリッド化による色素分子へのキラリティー誘起
ラダー状PSQにキラル基を導入することでコンフォメーションが制御できないか検討しています。具体的には、アミノ基含有有機トリアルコキシシランとキラル基を含むトリアルコキシシランの混合物のゾル-ゲル反応(共重合)を行うことで、キラル基とアンモニウム基を側鎖にもつラダー状PSQの合成を行いました(図1a) [1]。一方、あらかじめ合成されたアンモニウム基含有ラダー状PSQに対するキラル化合物の導入反応(高分子反応)によっても、同様なPSQを合成しています(図1b)[2]。
これらのPSQが一方向にねじれた(キラルなコンフォメーションをもつ)と思われる種々の分析結果が得られつつあります(現在も、詳細に検討しているところです)。しかし、まだまだらせん構造を持つDNA、タンパク質、アミロースなどの生体高分子ほどの精密なコンフォメーション制御は達成されていません。いずれは無機高分子であるPSQでも自由自在に構造制御する手法を開拓したいと考えています。
これらのキラルなPSQは、ハイブリッド化によって発光性色素分子(ポルフィリン誘導体[1,2]やピレン誘導体[3])へのキラリティー誘起が可能であり、耐久性に優れる円偏光発光材料の開発が期待できます。円偏光発光材料は次世代3Dディスプレイとしての利用が期待されており、現在、我々の研究室ではさまざまな発光性色素分子とのハイブリッド化を検討しています。
[1] Y. Kaneko and N. Iyi, J. Mater. Chem., 2009, 19, 7106. URL
[2] Y. Kaneko, H. Toyodome, and H. Sato, J. Mater. Chem., 2011, 21, 16638. URL
[3] H. Toyodome, Y. Higo, R. Sasai, J. Kurawaki, and Y. Kaneko, J. Nanosci. Nanotechnol., 2013, 13, 3074. URL
2. ラダー状PSQを用いる多層カーボンナノチューブの分散
カーボンナノチューブ(CNT)は、優れた導電性や力学強度を示し様々な応用が期待されている材料ですが、分散性の低さが問題となっています。これまでに多くのCNT分散剤が開発されてはいますが、耐熱性や耐久性等に優れるSi-O-Si結合材料をベースとした分散剤に関する報告例はあまり知られていません。
当研究室では、アンモニウムカチオン含有ラダー状PSQの対アニオンを塩化物イオンから三ヨウ化物イオンに変換したPSQ(PSQ-I3)が、多層CNT(MWCNT)の分散剤として働くことを見出しました(図2)[4]。具体的には、PSQ-I3の1-ペンタノール溶液にMWCNT(直径10 nm, 長さ1〜2 µm)を加え超音波処理を行ったところ、MWCNTの分散液が得られることをUV-Visスペクトル、動的光散乱、ろ過による残渣の重量測定等で明らかにしました。また、この分散液を乾燥して得た固体生成物のTEM像からは、PSQのマトリックス中にMWCNTが孤立分散していることが確認されました。
[4] T. Arake, K. Shikinaka, T. Sugioka, H. Hashimoto, Y. Sumida, and Y. Kaneko, Polymer, 2013, 54, 5643. URL
3. 環状テトラシロキサンおよびPOSSを架橋剤に用いたハイブリッドヒドロゲルの合成と物性
ヒドロゲルは網目状高分子内に多量の水を含むことのできる材料であり、ソフトコンタクトレンズや高吸水性樹脂などに使用されています。しかし、一般的なヒドロゲルは脆く、今後のヒドロゲルの利用領域拡大のためには、丈夫なヒドロゲルの開発は重要な課題です。以上のような背景により、これまでに日本の研究者らによって、トポロジカルゲル、ナノコンポジットゲル、ダブルネットワークゲル、Tetra-PEGゲル等の優れた力学物性を有するヒドロゲルの合成が報告されてきました。
一方でこれまでに当研究室では、2官能性および3官能性のアミノ基含有アルコキシシランを超強酸水溶液中で加水分解/縮合反応することにより、アンモニウム基含有単一構造(cis-trans-cis体)環状テトラシロキサンやかご型オクタシルセスキオキサン(POSS)等の構造制御されたシロキサンオリゴマーが簡便に得られることを見出しています。さらに、これらのシロキサンオリゴマーは水中で集合体を形成可能であることをDLS測定等により明らかにしました。
本研究では、これらの環状テトラシロキサンおよびPOSSに重合基を導入することでヒドロゲル合成のための架橋剤を合成し、これらの重合基含有環状テトラシロキサン(CyTS-MNa)およびPOSS (POSS-MNa)を架橋剤に用いてアクリルアミドのフリーラジカル重合によりハイブリッドヒドロゲルを合成しました[5]。
これらのハイブリッドヒドロゲルは非常に柔軟で圧縮に対して破壊されにくい性質を示しました(図3)。化学架橋だけではなくCyTS-MNaおよびPOSS-MNaの集合体形成による物理架橋の存在が、以上のような優れた力学物性に重要であると考えています。
[5] M. Yanagie and Y. Kaneko, Polym. Chem., 2018, 9, 2302. URL
Last updated on December 8, 2018